大きな志と、小さな志の調和(後編)
大きな志と、小さな志の調和(後編)
大きな志と、小さな志の調和(つづき)
すでに根幹にすえる志が立ったならば、今度はその枝葉となるべき小さな志について、日々工夫することが必要である。どんな人でも、その時々に色々な物事に接して、何かの希望を抱くことがあるだろう。その希望をどうにかして実現したいという観念を抱くのも一種の志を立てることで、わたしの言う「小さな志を立てること」とは、つまりこのことなのだ。
一例を上げて説明すれば、ある人が、ある行いによって世間から尊敬されたので、
「自分もどうにかしてああいう風になりたい」
という希望を抱くのも、これまた一つの「小さな志を立てること」になる。では、この「小さな志を立てること」に対しては、どのような工夫をすればよいのか。まずその条件となるのが、
「一生涯を通じて、『大きな志』からはみ出さない範囲の中で工夫する」ということなのだ。
また、「小さい志」の方は、その性質からいって、つねに移り変わっていく。だから、この移り変わりによって、「大きな志」の方に動揺を与えないようにするための準備が必要である。つまり、「大きな志」と「小さな志」で矛盾するようなことがあってはならないのだ。この両者はつねに調和し、一致しなければならない。
(省略)
志を立てる要は、よくおのれを知り、身のほどを考え、それに応じてふさわしい方針を決定する以外にないのである。誰もがその塩梅を測って進むように心がけるならば、人生の行路において、問題の起こるはずは万に一つもないと信じている。
渋沢栄一「論語と算盤」より
(Kazu)